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これ以後、秀頼は全く自発的な発言をしていない。大坂城が滅亡に向かってまっさかさまに転げてゆく様を、極めて無関心にまた冷たく見守っていただけ、とい う感じがする。秀頼は決して暗愚な君主ではない。少なくとも頭脳だけはきわめて明敏だった。あるいは明敏すぎたのかもしれない。頭脳明敏なものは先の見通 しがよくきく。或る程度、将来が読める。だから常人より早く諦めてしまう。愚者たちを説得し、正しい方向にむける努力を虚しいと思ってしまう。ねばりがな い。秀頼の悲劇は正にそこにあったと思う。

- 出典:影武者徳川家康〈下〉 (新潮文庫), 304ページ より